École Polytechniqueに行ってきた

2月の中旬頃から下旬頃にかけて2週間,パリのÉcole Polytechniqueでの研修に参加してきたため,振り返りを兼ねて滞在記を書こうと思います。

プログラムの説明

そもそもなんで行ってきたの?

私の所属する大学には体験活動プログラムというものがあり,学部生向けの研修・ボランティア・研究室体験などの様々なプログラムが用意されているのですが,このÉcole Polytechniqueでの研修もその1つです。東京大学数学科OBで,現在Polytechniqueで経済学の教鞭を執られている教授が毎年企画してくださっています。 昨年知人が何人かこのプログラムに参加していたことと,またPolytechniqueが理系分野では有名な学校であることを知っていたことからこのプログラムに興味を持ち,応募してみました。

École Polytechniqueとは?

説明をさぼるわけではないですが,とりあえずWikipediaを見てみましょう。

エコール・ポリテクニーク(École polytechnique、通称X)は、パリ市近郊パレゾーに位置するフランスの公立高等教育・研究機関。グランゼコールのひとつであり、4年の課程でIngénieur Polytechnicien の理工系学位を付与する。学生やディプロム授与者はポリテクニシャン(polytechnicien)と呼ばれる。学生の多くは、予備大学で2年間の数学と物理を学んだ後、または理学士(Bachelor of Science)を取得したのちに、本校を受験することとなる。

1794年のフランス革命中に、数学者ラザール・カルノーガスパール・モンジュによって創設され、1804年にナポレオン・ボナパルトによって軍学校とされる。今日ではフランス国防省の配下にある。

ParisTechの設立メンバーとしてパリ近郊の各高等工科系の学校とグループを結んでいる。

"ポリテクニック"の語源となった学校であり、世界中にエコール・ポリテクニークをモデルとした学校・大学が存在する。理工系エリート(テクノクラート)養成の機関であり、同校からは3名のノーベル賞受賞者、1名のフィールズ賞受賞者、3名のフランス大統領、複数の企業CEOを輩出している。2015年Timesの世界大学ランキングによって、フランス国内において第一位と認定された。

エコール・ポリテクニーク - Wikipedia

グランゼコール(Grandes écoles)とは?

フランスの高等教育は,UniversitésとGrandes écolesの2つに分かれています。Universitésは無試験で入学できるのに対し,Grandes écolesは(厳しい)入学試験を突破した人だけが入学できるという違いがあります。Grandes écolesを目指す高校生は,卒業後にプレパという予備学校に最低2年間通い,入試に備えることが必要とされます。École Polytechnique以外にも,エコール・ノルマル(École normale supérieure, ENS)やパリ政治学院(Sciences-po)などがグランゼコールに含まれます。

Polytechniqueの通称がl'Xなので,以下そう呼ぶことにします。

やったこと

スケジュール概観

スケジュールは以下のような感じでした。自由行動の時間が平日にはあまりなかったので,l'Xの授業に潜ることはできませんでした・・・。

日付 午前 午後
2/12 オリエンテーション LULI (Laboratoire pour l'Utilisation des Lasers Intenses) 研究所訪問
2/13 ハッカソンの準備授業 パスツール研究所訪問
2/14 ハッカソンの準備授業 Thalés社訪問
2/15 ハッカソンの準備授業 CEA (原子力代替エネルギー庁) Maison de la Simulation研究所訪問
2/16 Polytechniqueの日本語の授業に参加 SIRTA (Site Instrumental de Recherche par Télédétection Atmosphérique) 研究所訪問
2/17 ハッカソン ハッカソン
2/18 自由行動(観光) 自由行動(観光)
2/19 自由行動(LIX訪問) ハッカソン発表会
2/20 OECD本部訪問 自由行動
2/21 TOTAL社訪問 自由行動
2/22 セーブル陶磁都市訪問 Cabinet Plasseraud特許商標事務所訪問,欧州フランス赤門会の懇親会
2/23 UNESCO本部訪問 UNESCO本部訪問

印象に残ったものについて簡単に振り返っていきたいと思います。

オリエンテーション

l'Xの偉い方々(よく覚えていません・・・)に,学校の設立の歴史や制度,カリキュラムなどについてご説明いただきました。

入試に関するお話が印象的でした。l'Xの学部プログラム(Ingénieur)の入試では,筆記試験に加えて各科目の面接試験が1ヶ月もの長い期間にわたって行われるそうです。一学年あたりの人数は500人と,規模も決して少なくない中で,これだけ選抜に手間を掛けられているというのは日本の状況を考えれば中々驚きですが,選考作業は外部の業者に委託しているためl'Xの教授陣の負担はそこまで重くないとのことです。

またl'Xで取得できる学士に相当する学位は,従来はこのIngénieurという,高校卒業後にプレパを経て入学した学生用のもののみだったのですが,最近ではそれに加えて,卒業後にすぐに入学することができるBachelorプログラムが設立されたとのことでした。高校を卒業してすぐに専門的な勉強をしたい優秀な学生がアメリカなどの海外に流出してしまうのを防ぐ目的で作られたそうです。 フランスはその歴史の中で様々な過程を経て,UniversitésとGrandes écolesを併せ持つ特殊な高等教育制度を発達させてきたそうですが,時代の変化に対応するべく今もなおその試行錯誤が続いているんだな,という感じです。

パスツール研究所訪問

東大OGの研究者でいらっしゃる方にお会いしに行きました。生物には疎いので研究の内容はあまり覚えていませんが,フランスで生活・研究をすることについてのお話は興味深かったです。

ハッカソン準備授業

週末に予定されていたハッカソンに向け,Arduino, CAD, レーザーカッター・3Dプリンターのごくごく簡単な使い方を教えていただきました。

ハッカソン

このハッカソンは当初,第1週の終わりの土日2日間をかけて開催される予定で,また東大とl'X以外の学生も参加することになっていたのですが,主催団体の都合で急遽詳細が変更になり,制限時間は24時間,参加者はほぼ東大生のみと,規模が大幅に縮小した中で実施することになりました。

時間が短縮されたために,本来時間をかけるべきであるアイデアソンも小一時間ほどで打ち切られてしまい,納得の行かないアイデアに基づくプロダクトを作ることになってしまったので,個人的にはモチベーションが削られていましたが,楽しかったチームもあったようです。

LIX訪問

Polytechniqueの情報系の研究所であるLIX(Laboratoire d'informatique de l'École Polytechnique) に,自由時間に個人的にアポを取って行ってきました。 LIXの特定の研究室や研究者の方を知っていて訪問したかったというわけではなかったのですが,折角Polytechniqueにいるからには訪問してみたいという気持ちがあったため,LIXのホームページを見て,興味を持った研究室の教授にいきなりメールを送るということをしていました。平時では考えられない行動力を発揮していて振り返ると恥ずかしくなるくらいです,旅という非日常の中で特異なテンションになっていたんですかね。

AlCo(計算複雑性), Crypto/Grace(暗号・符号化理論), Parsifal(証明論), Typical(型理論)などのチームの教授10人程度にメールを送ったのですが(驚きの行動力),うち4人の方から返信をいただき,3人を訪問させていただけることになりました。

訪問では,事前に訪問予定の研究者のホームページを見ながら用意した,研究分野やキャリアに関する質問をさせていただきました。

研究分野に関する質問は,相手が想定しているこちらの知識レベルと私の知識レベルが噛み合っていないことが多かったり,英語での用語に慣れていなかったりしたため,理解できないか,もしくは極めて入門的な説明にとどまってしまうなどしました。あと研究内容はその方のホームページを見ればだいたい分かってしまうというのもあるので,そこまで専門的に突っ込んだ質問がしたいというわけでもないのなら時間を割かなくてよかったなぁという印象でした。

一方で,フランスで研究をすることについてのメリット・デメリットなどは話がはずみました。

フランスの研究施設の良いところとしては,ポスドクを終了すると早々と終身雇用権がもらえるため,アメリカなどと比べてポストを得るために論文を書き続けて評価され続けなければならないというプレッシャーが少ないところがあるそうです。あとフランスの研究施設は割とコネがない外部の研究者でも入りやすいみたいなことをアメリカからいらした方がおっしゃっていた気がします,魅力的ですね。

それから,私が東大出身であることを伝えると,訪問した3人のうち2人(Parsifalの方とTypicalの方)が小林先生を学生時代から知っていると反応してくださっていたのが印象的でした。

OECD本部訪問

OECD(経済協力開発機構)の支部がパリにあるため,訪問させていただきました。 訪問にあたって,OECD対日経済審査報告を読み,質問を準備して行きました。普段経済と全く関係のない分野を専攻しているため,準備はなかなか大変でしたが,訪問では興味深いお話を聞くことができました。

日本の政府債務残高に関してのお話があり,対GDP比では状況がギリシャよりも悪化している中で,国内の貯蓄が豊富にあると見られているというそれだけの理由で現在も信認を保てている,という事実を知りました。国内にいると感じる機会がありませんが,割と崖っぷちの状況なんだなぁということを認識し,危機感を抱きました。

TOTAL社訪問

TOTALとは,世界第4位の規模を誇る国際石油資本です。パリ郊外の新開発地区であるラ・デファンスにある本社ビルを訪問しました。TOTALの活動や,フランス国外出身で現在パリに在住し,TOTALで働いている方々のプレゼンなどを聞きました。

l'Xの写真

最後に,Polytechniqueの写真をいくつか貼っておこうと思います。

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Grand Hallと呼ばれる場所。滞在期間中はHarry Potter Weekなるものが行われていたため,ホグワーツの寮の名前が載った垂れ幕が下がっているのが見える。奥の壁にはPolytechniqueの校訓,Pour la Patrie, les Sciences et la Gloireの文字が読める。

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キャンパスの北側には,Polytechniqueの制帽の形をした広大な湖が広がっている。これは湖の形を真似て制帽をデザインしたのではなく,帽子の形を模した湖を作ったということらしい。

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Polytechniqueの敷地の近くに立つ,LIXの入っている建物。Alan Turingと呼ばれる(Turingはイギリス人のはずだけど・・・?)。看板にInriaの名前も見える。

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寮の共同キッチン。

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Polytechniqueのキャンパスの地下。結構広い。劇団グループが舞台の大道具の製作に使ったりするらしい。壁がカラフルな落書きでみごとに装飾されている。

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Poincare Aragoという名前のついた講堂。Polytechniqueには,著名な数学者・物理学者である卒業生の名を冠した教室などが多く存在する。

おわりに

渡航後に書きかけていたものがうまくまとまらなくてしばらく放置していたんですが,もう半年も経ってしまったので出すことにしました。フランス懐かしいですね。帰国してからすぐにまた戻りたいと思った国は初めてかもしれません,また行きたいです。